the RESTAURANTが目指す、新しい「地産地消」の在り方【シェフ・ソムリエ INTERVIEW 】
白井屋ホテルのメインダイニングを務める「the RESTAURANT」。
コンセプトは、上州の食文化に対するオマージュ、地元の大自然に育まれた食材の数々を、独自の解釈で再構築する【上州キュイジーヌ】。地元群馬・前橋の食材・そしてに焦点を当てつつ、それをワールドクラスのクオリティで前橋から世界に向けて発信していくという、LocalからGlobalを見据えた強い想いが込められている。
監修には、東京青山の名店「フロリレージュ」のオーナーシェフ、川手寛康氏を起用。そこに地元群馬出身のシェフ・片山ヒロ、ソムリエ・児島由光を迎え、場所・素材・作り手、3つのmade in(by)群馬が揃い、彼らが体現する上州キュイジーヌが始まろうとしている。
「どんなホテルが地元に出来るのか」と期待と高揚感にすごくワクワクした。
––– 2人はどのような経緯で今回のプロジェクトに参画しているのでしょうか?
片山ヒロ(以下、片山):2017年からこのプロジェクトに参加をしています。それまでは高崎で自分のレストランを経営していました。その時に経営者としての研鑽を積むために参加したGIS(群馬イノベーションスクール)で、白井屋ホテルの立ち上げ発起人でもある田中仁財団の田中仁さんにお会いしました。GISでの出会いをきっかけに、田中氏が食事に来てくれたことがあるのですが、そこで初めて、このプロジェクトのお誘いを頂きました。
児島由光(以下、児島):私は元々務めていた飲食店の閉店が決まった直後に、the RESTAURANTの監修先である「フロリレージュ」のマネージャーに今回のお話を頂きました。そこから、白井屋ホテル代表の矢村とシェフの片山と3人で食事をしたのが最初のきっかけでしたね。
––– 決断には迷いもあったのでしょうか?
片山:オファーを頂いて「はい、是非」の2つ返事でした。その時は、今の様に建物のイメージも無かったですが、世界の著名なアーティストが集まって、ホテルが出来るという田中氏からの話を受けて、「どんなホテルが地元に出来るのか」と期待と高揚感にすごくワクワクしたのを今でも覚えています。
児島:ワクワクしたという点は、私も一緒です。ホテルのイメージデッサンも見せてもらったのですが、想像以上のスケールでした。その時に、「群馬を盛り上げるための”one piece”になる」ということを白井屋ホテル代表の矢村が言っていたのですが、その言葉が今でも強く印象に残っていて、壮大なスケールと強い志に支えられている、この場所に強く惹かれたのを覚えています。
the RESTAURANTが見据える「地産地消」とは
––– the RESTAURANTでは「上州キュイジーヌ」という、LocalからGlobalを見据えたコンセプトを掲げていますが、シェフの立場から感じている群馬の”食”のポテンシャルや可能性について教えて下さい。
片山:野菜のクオリティ、肉のクオリティ、そして豊富な果物の種類、山にいけば山菜・キノコもあり、川魚も獲れる、海の物こそないですが、食材としては非常に豊かな土地だと感じています。
「群馬といえばこの食材」といった一点で突き抜けた食材が少ないせいか、なかなか表に出てこない。しかし、まだ世間に知られていない想いを持った生産者と、その素晴らしい食材が数多くあるのもまた事実です。日本酒や牛肉など、世界やアジアに進出している食材コンテンツも数多くあり、僕は胸を張って世界と戦える場所だと思っています。
––– 群馬の食材にこだわって提供しているんですね。
片山:the RESTAURANTでは「地産地消」を前提とし、もう一つ上のレイヤーでその拘りをお客様に提供出来ないかと考えています。食材を最大限活かすことに加え、その食材との新しい食べ方の出会いの創出であったり、そこに驚きを添えることで、地産地消+αの価値を感じて頂きたいと思っています。
例えば、普段食べているカボチャを予想しなかった食べ方で提供したり、ドリンクとして出してみたり、その土地で食べられてきた郷土料理に、the RESTAURANTの解釈を添えて、再提案してみたり、そういった「気づき」や「驚き」を持たせてこそ、そこに僕らの介在する意義があるのでは無いかと感じています。
美味しさに重きをおき、表現に重きをおき、感じたことのない感動に中に、群馬・前橋という「郷土」を添えることで、初めてthe RESTAURANTとしての料理になると思っています。
the RESTAURANTで楽しめる“ペアリング”とは
––– the RESTAURANTの「ペアリング」の魅力についても伺っていきたいのですが、「ペアリング」の定義とは、どんなものでしょう?
児島:簡単にいうと、シェフが出す一つの料理に対して、“味”や“香り”の一味を添える一つのドリンクを出すのがペアリングです。昔は、それをマリアージュと言っていた時期もありました。シェフが生み出す料理に対して、ソムリエが味や香り、温度までを加味しながら、料理を最大限に引き出すドリンクを提供します。
––– ドリンクがその料理を、さらに引き立てるわけですね。
児島:ペアリングの軸は、3つあると考えいています。
料理とのトーンを揃える、足りないものを補う、温度差を楽しむ。
この中で一番難しいのが2番目の「足りないものを補う」ことなんですが、全体のバランスを考慮し、コースの役割に沿った完璧な一皿を考え、それをつくるシェフのメニューに足りない要素を探すのは無いに等しいです。そのため、シェフが出す最高の一皿に対して、正面からぶつかって最高の一杯を導き出したいと考えています。
––– 「フロリレージュ」でノンアルコールペアリングも担当されていたとのことですが、the RESTAURANTでは、どんな風にペアリングを楽しんで貰いたいでしょうか。
児島:例えるなら、料理とドリンクで「漫才」をしている様な感覚を楽しんで貰えたら嬉しいです。
全ての料理に対して、トーンを揃えるだけのドリンクでは面白くないと思っています。時には、料理とドリンクで喧嘩をする様な楽しみ方も提供していきたいですし、そういったものを一つのコースの中で表現していきたいと思っています。
––– アルコールが弱い方でも、楽しめるのでしょうか?
児島:お酒を飲めない方でも楽しめるノンアルコールのペアリングもご用意していますので、ぜひお試しください。
人も街も、あらゆるものがこの場所から、もう一度芽を出そうとしている。2人の中の「めぶく。」
––– 最後になりますが、オープンに向けた意気込みも2人からお願いします。
片山:白井屋ホテルがある前橋市には、「めぶく。」という街のビジョンがあり、私はそれを体現するひとつが、この場所であると認識しています。街として、そしてホテルの開業に向けて、私自身も更なる挑戦をしに、この場所で「めぶく。」。人も街も、あらゆるものがこの場所から、もう一度芽を出そうとしています。メインダイニングを担う、the RESTAURANTのシェフとして、その象徴の一人になれたらと思っています。
児島:片山シェフと同じく、「めぶく。」というキーワードを持っています。
オープン直前になった今感じていることは、皆んなそれぞれに役割を持っているということ。ドリンクを通して、ホテルに来た人を感動させたい、それが私がこの場所をめぶかせる為の役割なんだと、改めて感じています。全力で自分の「めぶく。」役割を全うしていきたいと思っています。
片山ひろ(シェフ)写真右
群馬県出身。帝国ホテルでキャリアをスタート。その後都内のレストランでの修行を経て地元群馬にて自身のレストランを開業する。2017年、自身のレストランを閉めて白井屋ホテルプロジェクトに参画。フロリレージュやベルギーのHertog Janなど、国内外の名店での2年以上にもわたる研鑚を経て、白井屋ホテルのメインダイニングthe RESTAURANTのシェフに就任。
児島由光(ソムリエ)写真左
群馬県出身。都内のこだわりのフランス、イタリア料理の名店でソムリエとしてフロアマネージャーを歴任したのち、さらなる研鑽を積むために、川手寛康氏がオーナーシェフのミシュラン 2つ星「フロリレージュ」にて修行をし、ノンアルコールペアリングを担当。日本ソムリエ協会認定「ソムリエ」「J.S.A. SAKE DIPLOMA」資格保有。
test:Shohei Katayama
photo:Shohei Katayama